2004年01月17日

告知に至る道:4

朝から小雪がちらついていた。

11時にフェイシャルの予約を入れていたのだが、起きるのが面倒くさく、サボってしまおうかとも思った。しかし、「ああ、私はガンですから、もしかしたら、これでフェイシャルも人生最後なのかも?」と自己陶酔&悲劇のヒロイン的なネガティブ妄想し、「じゃあ行かないとねえ」と自分を奮い立たせた。

 
自分は、本来グータラで引きこもりオッケー人間なので、どんどん何もしなくなってしまう。そんな人間にとって、この「ネガティブ奮い立たせ方法」は結構効果的だ。

例えば、「ああ、Aと食事行くの面倒くさい…」と思っても、「ああ、Aと会えるのも、一生でもう最後かもしれないなあ、ガンだから」と思えば、これはもう少々無理をしてでも絶対行かねばならない気分になってくる。今後、この方法を活用してアクティブになろうと思った。

エステでは店長さん相手に、ガン保険と検査の大切さを伝道。もう私はガン保険使徒として伝道に生きる決意を新たにした。ガン保険に入ってないのにガンになっちゃった愚かな生き証人として、人生を真っ当しようと…。ガン患者の伝道以上に説得力のあるガン保険勧誘があろうか?いや、ない。たくさん勧誘するから、アリコでもアフラックでも、今から私をこっそりガン保険に入れてくれまいか?  

その後、銀行でお金を下ろし、病院でもらった入院指示書の用品を揃える買い物。入院は初めてなので、ちょっとウキウキする。「持ち物:石鹸、タオル...等々」、ここに「おやつは300円まで」とかあったら、久々に、遠足みたいな気分だ。その後、手術の後に着用する前開きのネグリジェ、前開きのパジャマを3着買う。自分が今持っているのは頭からかぶるタイプしかないので、胸切られて痛かったり動かなかったりしたら、脱ぎ着が辛くなる、きっと。

…しかし、ムダな出費だ。本来、全く必要なく無縁なものをこんなに。もう二度と着ないイケてないネグリジェとか。もう、もったいない…と考えたら怒りが湧きそうだったので、そこで考えをストップした。これから、パジャマ代どころか、入院費や手術代、検査費などが延々とかかる。ああ、些細な検査代や時間をケチったからこの有り様だ。トホホ。

その日も遅くまでネットをさ迷い、やはり自分は今の段階で、所謂「進行ガン」「3a」か「3b」で、切れば治るのではなく、かなりダメっぽいという情報を収集する。ああ、自分は手術で胸を取られて、その後、抗がん剤でヘトヘトになって、社会復帰もできず、結局どこかに転移して、あちこち痛くてすぐ死ぬに違いない…。

… 待てよ。じゃあ、働けなくなるので、生活保護を受けられるのだろうか?と、考えてみる。あと、年金払うのは、もう止めたいと思う。国民年金やら厚生年金やら、もう20年近くも真面目にコツコツ納めてきたのに、全く回収できずに終わるのだ。何たる勿体無さ。馬鹿馬鹿しい。逆に健康保険は、今後とってもお世話になるだろうから、払っておいてよかった。

ニッセンで安いカツラがセールになっていたのを思い出し、ためしにオーダーしてみた。カツラも初経験だ。初めての事は、何でもちょっとウキウキする。

その夜、お風呂に入って、自分の胸をしみじみ眺めてみる。
「ああ、もうすぐこの胸ともお別れ…。ごめんね、長い間ずっと一緒だったのに、大事にしてあげなくて…」
と、このモードでは、さすがにちょっと泣けそうになった。しかし、速攻で「ムダ。泣くのは、ムダ。事態を全く好転しない」とのムダムダ大王の囁きが聞こえ、涙が引っ込んでしまった。否定とか、怒りとか、悲しみとか、受容に至る一般的プロセスを、自分も通るのだろうか?


nekome1999 at 00:00コメント(0)トラックバック(0)告知に至る道治療メモ(初発) 

2004年01月16日

告知に至る道:3

朝から病院へ。
診察室に入ると、マンモグラフィーの写真が正面に提示されている。でも、左右とも乳腺で真っ白なので、何だか判らない。まあ、確かに左には歪な塊のような物に見えなくもないが、何が何やら…。

「やっぱ、ガンですね」

と先生。それから不思議そうに私を見た。

「今日はご家族の誰か一緒じゃないの?」
「いいえ」

配偶者はいないし、親はもう老齢で自分達の事で手一杯。そういう場合、こういうところに連れてくるべき家族ってダレさ? 今後はこういうシングルも、増えると思うよ。…しかし、先生、それって取り合えず、ガンって言っちゃう前に聞いておかないとダメでは。

「検査結果は、みんなガンで、こっちもVだから、間違いなくガンだね」と、先生。

…げ、しまった、Vってナニ?もうちょっと予備知識を仕入れておくべきだった! ふて腐れて早寝している場合じゃなかった。 ちょっと後悔した。

「最近は、セカンドオピニオンってあるけど、これがガンだという診断だけは99%覆らないと思うよ」

なるほど。と、言う事は、先生の経験と統計的に、私のケースは100%ガンなのだ。あとは先生の経験や判断基準が信頼に足るべきものかどうかだけが、私には重要となってくる。…しかし、相変わらずガンガン飛ばす先生だ。

ところで、この日は、ベテランっぽい看護士さんが先生の後ろで、心配げにやり取りを見ながら立っていた。前回はいなかったので、明らかに不自然だ。何のためにいるのだろう?もしかして、ここで私に期待されているリアクションは泣く事か?取り乱して泣き崩れるべき?でも、「ああ、マズい。仕事どうしよう? 休めるかな? どうやって段取り付けよう? あと、私が入院したら、可愛い猫チャンたちはどうなるの?」…と、私が心配なのは仕事と、そして猫チャン達の事だけだから、別になあ。所在無げな看護士さんと目が合って、ちょっと気まずい。だって、胸はコンスタントに痛いし、形は歪だし、脇も腫れてるし、背中も痛い。とにかく相当悪いのだろうという事は実感できた。ガンはガンなのだ。もういい。

「で、手術するんだけどね、胸はこう切ります」

と、先生は手術同意書に胸の絵や手術の切り方の絵を描いていく。乳首を中心にしてレモン形に切って切除するのだそう。「へぇ~」と感心して眺める。脇のリンパに一箇所手で触れる転移があるので、それも含めて取って、背中の方まで穿って見てみるから、とのこと。

「(なるほど、そうやって)全部取るんですか…」と感心して呟いた。それを「全部取るんですか…(ヤメテ)」と先生は解釈したのだろう。急いで「温存治療」というのもあると説明してくれた。要約すると、

1)温存治療は、胸を全部取らない
2)でも、私のような巨大シコリのケースには向かない
3)もっと実験的な治療も最近ではあるが、この病院は大学病院じゃなく公立病院なので、今現在、一番着実でオーソドックスな方法を選択するようにしている

なるほど。いいじゃないですか、基本に忠実。了解。
「あのー、10年生存率はどれくらいで?」 唯一知っている単語を繰り出してみた。
「10年じゃなくて、5年なんだけどね。リンパへ転移の数で区別されてるね」と、先生は書いてくれる。1~3個の場合は約XX%で、4個以上になるとYY%と。4個以上になると、ガクッと生存率が低くなる。

「はあぁ…(ナニ、この違い? じゃ、この3個と4個とを単独比較したらどうなるのだろうか?)」と呟いたのだが、先生は「はあぁ…(じゃあ、私、死ぬの?)」と受け止めたようだ。「これは日本人よりガンになり易い白人のデータだから」とか「これは5年前に手術した人のデータで、医学は日々進歩しているから」とか色々フォローしてくれる。何かムッとしていて怖そうと思ってたが、いい人っぽい。

ところで、例えばアメリカの患者のデータだと、サンプルが人種別であると明記されているなら別だが、通常はあらゆる人種が入っている。だから、例えば生き延びたXX%は全部白人で、残りは全員東洋人で、治療が合わずに全員死んだ…というような事はないのだろうか? もしくは、例えば東洋系が多い地域のサンプルで、その逆とかさ。白人の方が乳がんにかかり易いとか予後が悪いと言われているなら、東洋人とは体質が違うのだろう。だったら、薬に対する反応も、当然異なってくるのではないだろうか?ほら、白人は平気で飲んでるパキシルやプロザックですら、日本人は副作用に悩まされるって言うし。…と、考え始め止まらなくなる。私を悩ませる謎は、社会のいたる所にあるのだ。考え込む私。説明を続ける先生。

「で、その後化学治療、CEFね。今はネットにたくさん情報があるから調べてみるといいよ。これ、髪が抜けちゃうんだよね。髪が抜けにくい薬もあるんだけど、やっぱ効果が少ないんだよね」
「じゃあ、効果があるのでお願いします」

「効果がある」というのは、当然科学的根拠があってのことなのだろう。毛を惜しんで科学を蔑ろにする気は毛頭ない。しかし、やっぱハゲへの道か…。これは、知り合いのハゲ具合を笑っていた報い、ハゲの呪いかもしれない。しかし、ガン=ハゲというイメージは、間違いではなかったのか。まあ今はカツラもあるし、スキンヘッドってのもネオナチか瀬戸内寂聴風味で、面白いかもしれない。

「じゃ、来週…再来週の27日に手術で、26日に入院でいいのかな」
「仕事は、どのくらい休んだらいいでしょうか?」
「一週間入院で、その後2週間くらい静養するといいんだけど、そんなに休んだらクビになっちゃうって人は合計2週間くらいで復帰してるね」
「じゃ、お願いします」
「イヤになったら、電話してくれればいいから。女性はねえ、ノイローゼみたいになっちゃう人もいるからね」

先生、それは、もし先生が私にしたみたいに全員に告知してるのなら、半数以上はその場でフリークアウトすると思うよ。ガンはガンだけど、おそらく日本女性の大半はもっとソフトな告知を望むんじゃないかと推測するよ。先生は必要な情報は聞けばちゃんとくれるし、シンプルでベーシックなお医者さんなんだけれど、誤解を受けやすいタイプだ。

よし、二週間休んで、後半は在宅でやろう。取りあえず、そんなに早く復帰できるなら手術がいいや…。そう思った。でも、猫たちを一週間も留守番にさせるのは可哀想だなあ。猫チャン達は「どうして帰ってこないのかニャ? 寒いニャ、怖いニャ」と、私を待ち続けるのだろうか? と猫心を勝手に想像してみたら、不憫で不憫で、初めてちょっと泣けてきそうだった。

その日の午後は手術のための検査。血液検査、尿検査、心電図、肺活量、レントゲン。これはお決まりのフルコースなのか? 検査の中では、もう鼻つまんで何種類もさせられた肺活量が、一番疲れた。でも、技師さんは肺活量担当の人が一番コミュニケーション能力に長けていた。おそらく、その検査に要する指示が一番複雑で多いので、そう進化せざるを得なかったのだろう。「必要は発明の母」じゃなくて、「必要は進化の母」というヤツだ、きっと。

その夜、大事な友達と知り合いにメールを書く。「ガンだったので手術する」と。しかし、本当に伝えたかったのは、「健康診断サボるな」「ガン保険入れ」だ。

「あーあ、新年早々、こんな辛気臭いメールもらったらイヤだろうな」と最初は黙って済まそうと思った。しかし、手術中に突然死ぬ事もあるかもしれない。だから、身辺整理レベル1くらいはやっといた方がいいのではなかろうか?「友達がガンだ」ってのと「友達がガンで、手術で死にました」ってのと、どっちがイヤなニュースだろうか?まあ、どっちも嫌だが、連絡くれなかった友達に「水臭い。なんで?」と自分なら憤るだろうから、やはり連絡する事にした。 

海外にいる間に不精して、殆どの友達と音信不通になった。そりゃ、5年も6年も年賀状すら送らない薄情なヤツだったのだから仕方ない。で、疎遠になっている旧友には、まったく知らせない事にした。久しぶりに旧友や古い知り合いから連絡あって何だろう?と嬉しく思うと、どうせ「選挙」「借金」「誰か死んだ」「宗教」ってロクでもない知らせか誘いしかない。久しぶりに連絡して、いきなり「ガン」ってのも、ちょっと嫌がらせフィーリングが漂う。私の年齢だと、友達は皆、子育てやら働き盛りで、いずれにせよ大忙しで自分のことで手一杯なのだ。まあ、一段落着いてからできたら連絡すればいい。と、なると、友達の人数は極端に絞られる。だから、そんなに悩む必要はないのだが、付き合いの程度で、誰まで知らせるべきなのかが難しい。

しかし、まずメールを書いた相手は、「私に万が一があったら、猫達をお願いします」とお願いするオンライン友人達だった。

nekome1999 at 00:00コメント(0)トラックバック(0)告知に至る道治療メモ(初発) 

2004年01月15日

告知に至る道:2

朝から夜まで、仕事に打ち込んでみる。
私の仕事は、日々、アメリカ本社のお馬鹿チームと動作不安定な専用ツールに振り回され、「プロセス」もマニュアルもない。業務分析が好きな私には我慢ならない状況だった。でも、日々回さなければいけない業務で忙しく、そのような基礎的管理的業務に費やす時間が昨年はなかった。

幸い、私もアシスタントさん達も業務に慣れてきて、少々余裕が出てきた。私の今年の上四半期の予定は、ツール&プロセスマニュアルを完備し、トレーニングマニュアルも作成し、作業を誰にでもできるよう効率化&標準化することだった。アクセスデータを整理して、ちょっと戦略的な資料を作成しようとも考えていた。また、アシスタントさん達の仕事がそろそろルーティンになってきていたので、モティベーション刺激のため、毎週何か新しいことを一つトレーニングしていこうと計画もしていた。 

彼女達には「仕事」を好きになって欲しかった。業務そのものは退屈でも、それを通じて何かを学び、習得していく過程が齎す満足感を得て欲しかった。自分で目標を設置し、一つ一つそれをクリアしていく楽しみを知って欲しかった。しかし、今週の予定からまず崩れてしまったので、それどころではなくなってしまった。Lさんから頼まれた契約関連の仕事もあったので、残業する。

元日本企業&外資の社長で、今は相談役をしているZさんから食事のお誘いがあった。同僚のUさんも一緒。ハイヤットのお寿司屋さんで、好きなものを食べさせてもらった。Zさんは世界を渡って日本製品を売り込む仕事をしていた、そう、まるで「『プロジェクトX』の男達」みたいな経験をしているので、話はいつも面白い。

職場の皆さんのお陰で、ちょっと気が紛れた。しかし、その日のプライベート使用のメーラーを見ると一通も発信していない。この日も、ふて腐れて早寝したらしい。数日前から胃が痛むのも気になっていた。

「もしかして、これもガンのせい?」…と、何でもかんでも、「ガン」とリンクして納得してみた。

nekome1999 at 00:00コメント(0)トラックバック(0)告知に至る道治療メモ(初発) 
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